テープバックアップとは、磁気テープが入ったカートリッジをバックアップの記録媒体として使うバックアップ方式のことをいいます。
昔、スマホも携帯電話もないころは、カセットテープで音楽を聞いていましたよね。それも同じく磁気テープです。1950年代から始まったテクノロジーなのです。もしかすると、あなたが生まれる以前かもしれません。レガシーなシステムのデータバックアップにテープバックアップは欠かせない存在でした。
カセットテープと同様、テクノロジーの進化とともに、磁気テープの活用が限定され、やがてマイナーな存在のように捉えられているテープバックアップですが、用途や目的によっては、依然として根強いニーズのあるバックアップ方式の1つです。
これは意外かもしれませんが、Google の Gmail で発生した大規模障害の際も、データセンターのデータを計画的にテープバックアップしていたたとこで、ユーザーのデータが復旧できたそうです。
最近では、磁気テープのテクノロジーも進化して、最新の規格では、HDDと遜色なり書き込み速度になっているなど進化してきています。
本記事では、テープバックアップとはどのようなもので、方式、活用のメリット・デメリット、どんな場合におすすめするか、しないか、様々な活用事例を通して、テープバックアップの世界を理解しましょう。
目次
1. テープバックアップとは
1.1 テープバックアップとは磁気テープストレージを使ったバックアップ方式のこと
磁気テープストレージを使ったデータバックアップの方式です。
ここでいう磁気テープストレージとは磁気テープのカートリッジを使用する装置やシステムを含めてたものを言います。磁気テープの入ったカートリッジを記録媒体として差し替えて利用することで、大量のデータバックアップを実現します。
テープカートリッジの構造や、読み書きの仕組みは規格によってそれぞれ異なります。
1.2 テープバックアップの種類は、LTOが標準かつおすすめ
現在、バックアップに用いられる磁気テープの規格はLTOがスタンダードです。
LTOとは、「Linear Tape-Open」を略した名称で、コンピューター用のデータ保存磁気テープ技術のことです。データカートリッジをドライブに差し込んで使用する記録装置で、ビデオテープ(VHS)を想像するとわかりやすいでしょう。
出典:JEITAテープストレージ専門委員会 「各種テープ規格のロードマップ-2021年版-(PDF)」
◆ LTOはオープンな規格
当初、LTOは、Seagate Technology、Hewlett Packard(HP)、IBMの3社によって共同開発され、利用に関して法的な制約がないオープンフォーマットである点から、汎用性の広さや信頼性の高さが評価され、同時に、長期にわたる保管および読み書きに対する安心感も高いメディアです。大量・大容量データのバックアップやアーカイブなどの用途で、放送局や制作会社、病院、銀行などではよく用いられています。
◆ LTOの種類といえば「Ultrium」
LTOには大容量化を目指した「Ultrium」と、高速読み出しが目的の「Accelis」の2種類がありますが、Accelisはあまり普及せず、現在は規格更新が止まっています。そのため、LTOといえば「Ultrium」を指すことが一般的です。
2. テープバックアップ6つのメリット
磁気テープストレージは1950年代から利用されている古いテクノロジーです。それでも長期間利用されているのは、当然メリットが存在するからです。主に6つのメリットがあります。
- 2.1 低コストなバックアップ運用が実現できる記録媒体
- 2.2 大容量のデータ保存が可能
- 2.3 データの長期保存
- 2.4 省エネ
- 2.5 移動性・保管性が優れている
- 2.6 セキュリティ性が高い
2.1 低コストなバックアップ運用が実現できる記録媒体
大容量のデータを長期間保管する目的では、ハードディスクやクラウドサービスと比較して、総コストが低く抑えられることが、大きなメリットです。
以下、米国の調査会社ESGによるレポートでは、ハードディスク・クラウドストレージ・LTOテープを1000TB から、データ増加率10%で10年間利用した場合を想定して、比較したところ、ディスクと比較して86%、クラウドストレージと比較して66%低いコスト(TCO)に抑えることができました。ディスクソリューションと比較すると、合計1,350万ドルのコスト削減が実現できるという結果でした。
※ シミュレーション: 1,000 TBの既存データ・年率10%成長・10年間利用を想定して試算
出典元:ESG “Quantifying the Economic Benefits of LTO-8Technology” (Aug 2018)
2.2 大容量のデータ保存が可能
大容量データを保存するメリットは、システムも含めて必要なデータ全体をまるごと保存することができることです。フルバックアップしたデータ全体を1つのカートリッジに保存し、保管することで、管理上の手間も省けます。もし、必要になった場合にも、すぐに取り出せます。
LTO規格の進化とともに、磁気テープカートリッジで保存できる容量は増加しています。1つのテープカートリッジでの保存容量が多くなれば、切り替える手間や、保管スペースも少なくてすみます。最新のLTO-8で12TB(圧縮時 30TB)です。容量が不足した場合は、磁気テープカートリッジを追加すれば簡単にデータ容量を追加できます。容量が多いほどコスト効率は良くなっていきます。ハードディスクを追加する場合には、設置場所や追加設定などの手間やコストを考慮すると、テープにメリットがあります。
2.3 データの長期保存
長期間データを保存できることは、必要な際に、過去の情報にアクセスできるということです。積み重ねた過去の実験結果だったり、患者の過去の病歴、場合によっては訴訟等での証拠として必要になるかもしれません。また、業種や業態によって過去データの一定期間保存が義務付けられています。
例えば、建設業者は書類や帳簿や図書(図面など)を、原則5年間保存しておかなければなりません。他にも例外的に10年間保存する必要のある書類等もあります。
磁気テープは、適切に保守されていれば50年以上保存できます。長期間のデータ保存に向いた信頼性の高いメディアです。その結果、テープバックアップは重要なデータの長期保存を提供し、高いアーカイブの安定性を保証します。
2.4 省エネ
磁気テープストレージは、データの読み書きの際しか電力を消費しないため、電気代も低く抑えられます。一方、ハードディスクは常時接続されているために電力消費量や発熱量は多くなります。
出典元: JEITAテープストレージ専門委員会 「テープストレージの活用による省エネ貢献_2018(PDF)」
2.5 移動性・保管性が優れている
記録済みのカートリッジをドライブから取り外せるので、災害などに備えた遠隔地での保管も容易です。テープドライブにカートリッジが入っていない状態では記録されたデータへのアクセスができないので、うっかりデータを消去してしまうなどの人為的なミスや、改ざんなどのリスクも、ハードディスクに比べて少ないといえます。
2.6 セキュリティ性が高い
テープバックアップは、バックアップ操作が完了すると、磁気テープカートリッジはシステムから切断されます。テープカートリッジがシステムに接続されていない場合、攻撃者はデータを取得して破壊することはできません。ランサムウェアやマルウェアからデータを保護できる可能性が高まります。
3. テープバックアップ6つのデメリット
技術進化で、バックアップの代替手段の幅は広がりました。テープバックアップでの6つのデメリットを理解していきましょう。
3.1 検索性が悪い
3.2 ハードウェア障害
3.3 人的要素によるリスク
3.4 数値化しづらい保守・管理コスト
3.5 盗難に対する脆弱性
3.6 災害に対する脆弱性
3.1 検索性が悪い
ランダムアクセスが可能なHDD等と違って、磁気テープは情報がリニアに記録されています。大量にデータをアーカイブしていて、特定のデータを検索し、復元したい場合に、データの読み込みに時間がかかるため、HDDよりもデータ復元をするための時間が長くなります。
3.2 ハードウェア障害
磁気テープでは、読み書きのためのドライブが別途必要です。磁気テープや磁気テープを読み書きするためのドライブ機器の障害が、バックアップと復元が失敗する原因です。
企業がバックアップを完全にテープに依存していて、機器に障害が発生した場合は、データを回復する手段がないことになります。
障害リスクを減らすためにも、テープ読み書きのためのドライブのヘッドクリーニングを定期的に行うことをおすすめします。使用されている機器のクリーニング頻度を確認しましょう。
3.3 人的要素によるリスク
テープバックアップは、テープ交換のために人手を介することになります。手動のプロセスなので、テープを交換をわすれてしまうような人為的なミスが起きやすいリスクも潜んでいます。最近では自動化するテープライブラリと呼ばれる機器もありますが、高価なソリューションになりがちです。
また、テープには紛失、破損、摩耗の恐れもあります。例えば、1日の終わりにテープを交換するのを忘れたり、極端な温度や電磁気に近すぎる場所などの危険な場所にテープを保管したりするリスクもあります。
3.4 数値化しづらい保守・管理コスト
テープバックアップに必要な手作業、テープを読み取るための機器のメンテナンスなど、数値化しづらい業務負担が考慮されていない場合があります。IT担当者が様々な雑務に追われて、日々業務を過ごしているような場合は注意が必要です。
例えば、IT担当者が朝イチでテープバックアップがちゃんと取れているか確認し、システム上問題が発生した際のトラブルシューティングやテスト作業、社員が紛失・破損したデータの特定と復元のために、毎日かなりの時間を使っているというような状況です。
この種の数値化しずらい管理コストは、本来の業務の足を引っ張ることになり、徐々に積み上がっていく可能性があり、IT担当者の業務負担増加とやる気の問題に悪影響を及ぼしてしまう可能性もあります。IT管理のリソース配分、マネジメントが重要になります。
3.5 盗難に対する脆弱性
テープバックアップはオフラインで行われ、テープカートリッジは物理的に会社かどこかに保管されます。同時に、保管先のデータが盗難にあうリスクもあります。
これらのリスクにも対応するように、安全な保管場所、保管方法の確保。盗難にあった際も、データが勝手に読み取られないように、テープカートリッジ自体に暗号化対応やパスワードロックなどの対応を行う必要があります。
3.6 災害に対する脆弱性
災害などで物理的にオフィスが被害にあった際、オフィスにテープ自体を保管している場合は、被害にあう可能性があります。遠隔地に二次保管していた場合でも、物理的に二次保管場所からテープを回収して、データを復元するには時間を要します。
4. テープバックアップの活用は適材適所に取り入れるのがベスト
テープバックアップは、用途や目的によって使い分けることが最適なアプローチです。メリット・デメリットを見た上でのベストな活用方法はデータ・アーカイブとしての活用でしょう。
今後も、データは増加していくことは確実です。
組織のデータバックアップ全体像を俯瞰した時に、どのようなデータを、どうやってバックアップして、どの程度早く復元する必要があるのか、データの復元の頻度はどの程度か等を確認することで、テープバックアップを利用する場合のアプローチが決まっていきます。
データバックアップの手法は業務形態やデータの活用頻度によってさまざまです。データ容量が増えれば総合的なコストが大きくなっていくため、バックアップのコストパフォーマンスを考慮して再構築していくことが求められます。
例えば、アクセス頻度が高いデータは高速なフラッシュメモリーを採用したフラッシュストレージに、アクセス頻度が中位のデータはHDDに、アクセス頻度が少なくとも長期的な保存が必要とされるデータは磁気テープに、というように複数のストレージを柔軟に組み合わせていくと良いでしょう。
5. テープバックアップの活用がおすすめのケース・おすすめしないケースまとめ
データをどの程度の量・期間で保管しないといけないか、また、過去のデータが必要場合にどの程度迅速に復旧する必要性が出てくるかによっておすすめするケース、おすすめしないケースに分けることができます。
5.1 テープバックアップの活用がおすすめのケース
大量のデータを長期保存(アーカイブ)することが事業上欠かせない場合は、テープがおすすめです。
一般的にデジタル化が進み大量データの長期保管がしやすくなりました。安価で大量のデータを長期間保管したい場合、テープは依然として有効な選択肢です。
様々な業種での活用が拡大しています。
分析・研究 | 衛星/気象、薬学、ゲノム解析、宇宙開発、天文観測、AI・機械学習など |
社内資産・コンプライアンス | 設計資産/CAD、製造ログ/履歴管理、会議議事録など |
監視 | 鉄道、警備カメラ、監視カメラなど |
医療 | レントゲン/CT/MRI、カルテ、手術動画など |
金融・保険 | 金融証書データ、保険証書データ、証拠画像など |
放送局、メディア関連 | 報道、ドラマ、動画コンテンツ、過去媒体データ、書籍、雑誌、新聞など |
教育関連 | 図書館、美術館、博物館 |
データセンター | ユーザーデータ、システムデータ |
以下は、放送局がアーカイブとして長期間データを保管している例です。
5.2 テープバックアップの活用をおすすめしないケース
以下に該当する場合は、テープバックアップ以外のバックアップ手段を検討することをおすすめします。
・障害が発生してもシステム停止が絶対に許されない
・障害が発生した場合、復元スピードが優先される場合
・データ復元の頻度が多い場合
・バックアップ作業を自動化したい (できるだけ人手を介さない手段)
6. テープバックアップからクラウドバックアップへの移行でコストやリソースを削減した例
Jana Marine社は、クラウドバックアップに切り替えることで、メンテナンスに掛かるコストとリソースを削減することができました。
Jana Marine 社は、特殊機器を搭載した船舶 18 隻をアラビア海域のサイトに展開するオフショア石油 / ガス開発企業に海洋サービスを提供しています。従来は、船舶内にあるサーバにメンテナンス情報のデータバックアップを行っていました。ITに詳しくない乗組員にテープ交換の作業をしてもらう運用で、度々バックアップが上手くいかずに、メンテナンスの際にIT要員を派遣するなどで、追加のコスト負担がかかっていました。これをクラウドバックアップの運用に切り替えました。
クラウドバックアップ事例:Jana Marine 船舶の保護コストを削減
7. テープバックアップを上手く活用している例
Gmail の機能障害の例
2011年2月、Google の Gmail の機能障害で約4万人が影響をうけました。Gmailでは、データセンターのデータをテープバックアップをとっていて、時間がかかったようですが4万人のユーザーのデータは無事復元できました。より有効にデータを復元できることで、テープバックアップの重要性が見直された例です。Google の戦略的なデータ保護対策の一環として、精度の高いデータ復旧にはテープ利用は欠かせないと考えているようです。復旧データ保護の観点から、Google のデータ保護の考え方、取り組みは参考になります。
詳細: Gmailの機能障害から考えるテープバックアップの重要性
バックアップ運用全体の効率化とテープバックアップ運用(二次バックアップ)を改善した例
住宅メーカーの旭化成ホームズ株式会社は、特有の住宅の写真データ、CAD データをはじめ、日々の業務データなど重要な企業資産で、データバックアップをとっていた。比較的容量の小さいデータが数多く存在するのが特徴で、年々そのボリュームは増加の一途をたどっていた。サーバOSの入れ替えのタイミングに、バックアップソフトに Arcserve UDP を入れ替えてバックアップ時間を短縮。さらに、今まで週末かけても終わらなかったテープによるフルバックアップ(二次バックアップ)が、4時間に短縮されました。
旭化成ホームズ様 : バックアップ高速化、柔軟なデータ保護体制で災害対策も強化
8. テープ離れの背景とそれを踏まえて知っておくべきポイント
2010年頃に、HDD自体の値段が低下することで、テープと比較しても単価的に安価になったことや、仮想化技術の進化、パブリッククラウドの普及とともに、遠隔地バックアップやバックアップデータ二次保管場所として、クラウドも選択肢として増えたことが、テープ離れの背景にあります。
クラウド利用では先をいっている Gmail の障害時の経験であげられている点は、これからのデータバックアップの考え方として、知っておくべきポイントになります。
バックアップはゴールではない
バックアップは必須だが、重要なのはリストアです。必要な時にデータがリストアできることを保証できるくらいバックアップに取り組むべきです。
冗長化が重要
物事は常に失敗する。システムに冗長性を組み込むことで失敗への計画を立てるべきです。
すべては多様化している
ひとつのバックアップコピーを保持するだけではバックアップが破損した際にデータをリストアする助けにはならない。破損した特定のコンポーネントをリカバリできるようにバックアップ/リカバリを多様化するべきです。
必ず検証する
リストアができないならバックアップしても意味がありません。現実の状況下での復旧プロセスのテストが必要不可欠です。
9. バックアップの導入形式
9.1 ディスク⇔テープ (D2T 方式)
テープには大容量、低コストいうメリットに加えて搬送もできるという魅力があります。そのため、データ量が多く長期にわたって保存する必要がある場合や、搬送したとしてもトータルコストを抑えたいというニーズに適しています。
9.2 ディスク⇔ディスク (D2D方式)
ディスクバックアップは、高速という特長を備えているため、バックアップの頻度が高い場合やデータ同期が求められるような場合に適しています。また、バックアップやリストアの所要時間を1分でも短縮したいミッションクリティカルな用途にも向いています。
9.3 ディスク⇔ディスク⇔テープ (D2D2T 方式)
ディスクとテープを用いて2段階のバックアップを行う手法です。
本稼働のデータをHDDにバックアップした後、長期保存が必要なデータ(アーカイブデータ)をテープに保存する方式です。直近のまだテープに移動していないデータを高速にリストアでき、ディスクの備える高速性とランダムアクセスそしてテープの長期保存性を同時に活かした方式です。
10. まとめ
テープバックアップの概要、メリット・デメリットがご理解いただけたでしょうか。メリット・デメリットを理解し、今後のテープバックアップの技術進化を見据えて、適材適所でのテープバックアップ活用をおすすめします。テープバックアップは、大容量データ・アーカイブに最も適しています。迅速で頻繁な復元用途には適していません。テープバックアップを活用した事例などを参照し、あなたの組織のデータ保護目的に合わせたテープバックアップ活用を検討ください。
参考になれば幸いです。
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