はじめに
洪水や浸水、長期にわたる停電など、広範囲に甚大な被害をもたらした平成30年7月の西日本豪雨や、令和元年10月の台風19号・21号などはみなさんの記憶にも新しいことと思います。オフィスや倉庫、工場や店舗など、企業の施設が浸水被害を受けたというニュースを見るたび、うちの会社は大丈夫だろうか、と心配されている関係者の方も多いのではないでしょうか。企業においても事業を継続する上で水害への対策は非常に重要になってきます。
では具体的に、企業はどのように水害対策を行えば良いのでしょうか?この記事では、水害対策が必要だとわかっていてもどうしたらいいかわからない、というみなさんのために、水害対策の基本をご紹介します。今すぐできることを始めて、台風や豪雨に備えましょう。
目次
1.企業にとって水害対策が必要になっている要因
水害対策が企業にとって非常に重要になってきたのには、主に2つの要因があります。
1-1. 年々、水害リスクが高まっている
1-2. 水害によって事業継続が困難になる場合がある
1-1. 年々、水害リスクが高まっている
その大きな要因は「地球温暖化」です。気象庁によると、日本の年平均気温は100年あたり1.26℃の割合で上昇し、全国の1時間降水量50mm以上の年間発生回数も増加しています。地球温暖化の進行に伴い、大雨や短時間に降る強い雨の頻度はさらに増加すると予測されており、今後も台風や豪雨による水害や土砂災害発生リスクが高まっています。
「日本特有の地形」も要因のひとつです。国土の約70%を山地と丘陵が占めている上、国土面積が狭いために山の斜面は急で険しく、崩れやすいという特徴があります。山の水源から流れ出す川の流れも急なため、大雨などによる川の氾濫など水害も発生しやすい地形です。
1-2. 水害によって事業継続が困難になる場合もある
水害によって浸水などが起こると、業種を問わず事業継続が困難になる場合があります。
平成24年7月九州北部豪雨(2012年)に関するヒアリング調査によると、被災した阿蘇市内牧地区の金融業、宿泊業、小売業、医療・福祉の4分野5事業所において、当時は浸水リスクへの意識が低く、業務再開まで最長3ヶ月かかったケースもあったことがわかります。
出典:事業所における浸水被害を対象としたリスク管理方策(河川技術論文集,第19巻,2013年6月,p.325~330)
最近では以下のようなケースもありました。
事例① 「令和2年7月豪雨」(2020年)
九州を中心に記録的な大雨が降り、河川が氾濫。従業員の安全確保のため、九州北部を中心に工場の稼働を休止する動きが自動車、ビール会社などで相次ぎました。また交通・物流網の停滞により、様々な企業活動への影響が出ました。
事例②「平成30年7月豪雨」(2018年)
倉敷市真備町地区を中心に河川決壊や土砂崩れが同時多発。住宅だけでなく、浸水で機械や制御用コンピュータが使用不能になり、商品の生産が停止した工場や、重要書類や事務機器、PCなどが水没し業務再開が困難になったオフィスや店舗も多数ありました。
2.企業における水害対策~5つの具体的な準備
地震への対策と比較して、企業の水害対策はまだまだ進んでいないことが、上記のヒアリング調査でもわかります。しかしながら、工場やオフィス、店舗等への浸水は長期にわたって事業に大きな影響を及ぼすため、その対策は非常に重要です。ここでは、すぐに役立つ水害対策を5つご紹介します。
- まず地域の水害危険度を知る
- 水害を想定したBCP方針を策定する
- 施設を浸水から守る
- 停電に備える
- 重要なデータ、コンピュータシステムを守る
2-1. まず地域の水害危険度を知る
今すぐできるのは、まず施設のある地域の、想定される水害危険度を知ることです。以下の事項を調査し、想定される浸水の深さや浸水継続時間等を踏まえ、浸水規模を知りましょう。
- 国、地方公共団体が指定・公表する浸水想定区域
- 市町村のハザードマップ(平均して千年に一度の割合で発生する洪水を想定)
- 浸水ナビ
- 地形図等の地形情報(敷地の詳細な浸水リスク等の把握)
- 過去最大降雨、浸水実績等(比較的高い頻度で発生する洪水等
<ご参考サイト>
●ハザードマップのポータルサイト:洪水や土砂、高潮、津波などの情報が掲載されていて、市長区村を選んで表示します。
●地点別浸水シミュレーション検索システム(浸水ナビ):浸水想定区域図を電子地図上に表示するシステムです。
一例としてArcserve Japanのオフィスがある千代田区のハザードマップを見てみましょう。神田川と荒川の洪水を想定したハザードマップが提供され、それぞれの避難経路や避難場所などの情報が掲載されています。(図は神田川版)
2-2. 水害を想定したBCP方針を策定する
企業の被害を軽減し、早期の業務再開を図るため、地震や火災など他の災害と同様に、水害を想定した BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)を策定しておく必要があります。
BCPとは、事故や災害などが発生した際に、「いかに事業を継続させるか」「いかに目標時間内に事業を再開させるか」について様々な観点からあらかじめ対策を講じておく計画のことです。防災マニュアルが人命や資産を守ることを目的としているのに対し、BCPは事業に影響を及ぼす脅威を想定し、重要事業の継続や被害からの早期復旧を目的としています。
水害を想定したBCPの策定が必要なのには理由があります。水害の際に事業継続が困難になる可能性が高いからです。これを回避するためにBCPを策定し、いざという時、慌てずに対処できるよう体制を整えておくことが必須です。
水害が発生した場合、
- 電気や水道などインフラが物理的な破壊される
- 浸水や停電などによってサーバーやネットワークがダウンする
ことが想定されます。
昨今では、急速なITの普及により、企業活動の多くに様々なITシステムが導入されています。インフラ損壊やサーバーダウンなどによって企業のITシステムが停止すると、
- 受発注システムが使えない
- メールでのやり取りができなくなる
- 各種オンラインサービスが利用できなくなる
- 顧客データが損失する
といった現象が起こり、企業活動への被害は甚大になります。
BCP策定の基本的なステップは以下の通りです。
- 基本方針の策定:目的、策定範囲、体制等を決める
- 被害の想定:重要業務において復旧の制約となるボトルネックを特定し、災害が発生した場合の被害程度や事業への影響等を想定する
- 優先事業・重要業務の選定:優先的に復旧する事業(商品・サービス)を選定し、目標復旧時間を定める
- BCP文書の作成、関係者への徹底:上記を簡潔に文書化し、関係者に徹底する
BCPは策定しただけでは機能しません。水害発生時にBCPに沿った行動をとるには、従業員や関係者に徹底し、必要に応じて見直し、実際に訓練してみることが重要です。
2-3. 浸水や停電から重要なデータやコンピュータシステムを守る
企業にとっては、浸水や停電への対策と同時に、データ保護のための対策を取っておくことが必要です。以下に「データ保護」の観点からできることとして、無停電電源装置の設置とバックアップについてご紹介します。
重要なデータの入った機器には、無停電電源装置を使って万が一の停電に備える
停電により電源障害が発生した場合、PCやストレージ、ネットワーク機器などに電力を供給することで、業務継続が可能になります。無停電電源装置がない場合、予期せぬ電源障害時に業務が停止してしまうだけでなく、機器の故障や重要なデータの損失といったトラブルを招くことになり、ビジネスに深刻な打撃を与えかねません。突然のシステムダウンはデータを損壊するおそれもあるのです。
重要データやシステムのバックアップを取っておく
洪水や浸水被害、停電などが発生した場合を想定し、重要データやシステムのバックアップを取っておくことは必須です。特に、水害が発生した際に重要となるのは、バックアップのうち1つは別の場所で保存するという方法です。ローカルバックアップだけではシステム復旧ができず、事業継続が困難になる場合も想定し、遠隔地へのバックアップを行っておく必要があります。
遠隔地バックアップには以下のような方法があります。その企業にあった方法を選択するのがよいでしょう。
企業が遠隔地の拠点を持っている場合:
- 物理的に遠隔地へ転送
- 地理的に離れた拠点にネットワーク転送
遠隔地に拠点がない場合:
- クラウドにネットワーク転送
2-4. 施設を浸水から守る
いったん施設内に浸水してしまうと、排水に1週間はかかると言われています。工場や倉庫のほか地階や1階部分にオフィスや店舗がある場合は、可能な限り施設内への浸水を防止するための準備をしておきましょう。
<出入口の浸水対策>
- マウンドアップ
- 止水版、防水扉、土嚢の設置
<開口部の浸水対策>
- 止水板等の設置
- 換気口を高い位置へ設置する
<逆流・溢水への対策 >
- 下水道からの逆流防止措置(バルブ設置など)
- 貯留槽からの浸水防止措置(マンホールの密閉措置など)
2-5. 停電に備える
令和元年東日本台風(第19号)の際には、大雨に伴う内水氾濫により高層マンションの地下部分に設置されていた高圧受変電設備が冠水、停電。エレベータや給水設備等のライフラインが一時使用不能となる被害が発生しました。企業においても同様な被害を避けるため、電気設備への浸水対策を講じておく必要があります。
電気設備における浸水対策は以下の通りです。
- 防水扉を設置し、防水区画を作っておく
- 止水処理剤を用意しておく
- 電気設備の設置場所をかさ上げする
- 耐水性の高い電気設備を採用する
- 水防ライン内の雨水等を流入させる貯水槽を設置しておく
また電気設備に浸水被害が発生した場合に備え、早期復旧のため平時から準備をしておく必要があります
平時にできることは、
- 管理者、電気設備関係者の連絡体制整備
- 設備関係図の整備
水害発生時、発生後にできることは、
- 排水作業(排水は浸水規模にもよりますが、一般的に1週間はかかると言われています)
- 清掃、点検
- 復旧作業の実施
です。
3.企業の水害対策:5社を紹介
では、先進企業は水害対策としてどんなことを行っているのでしょうか。
以下は、浸水被害防止に関する企業での先行的な取組事例等について国土交通省が調査した資料から代表的な5社の例を抜粋し、まとめた表です。5社中4社がBCPを策定しています。コンピュータシステムの保護については、株式会社静岡銀行が業務の迅速な対策に向けコンピュータシステムのバックアップを重要項目に挙げています。株式会社コロナでは、2001年より基幹システムをデータセンターにアウトソーシングしていたおかげで、2004年7月、近隣の五十嵐川の堤防決壊による大規模な浸水被害の際にも、システム面での大きな被害が回避できたといいます。
企業名 | アシックス | 大塚製薬 | コロナ | 中京 テレビ | 静岡銀行 | |
水害危険度を知る | 〇 | |||||
BCP策定 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
コンピュータシステムを守る | バックアップ | 〇 | 〇 | |||
データセンター利用 | 〇 | |||||
施設を守る | かさ上げ・防潮堤等 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
停電対策 | 無停止電源・非常用電源 | 〇 | ||||
自家発電装置 | 〇 | 〇 |
出典:企業における先行的な取組事例等について、国土交通省が「浸水被害防止に向けた取組事例集」としてとりまとめた資料の「第3章 企業及びライフライン・インフラ事業者等における先行的な取組事例」より抜粋。
4.企業施設に浸水リスクが発生した時の具体的な手順
企業施設に浸水リスクが発生してしまったら、初動対応とBCP発動が重要になります。
4-1. 初動対応
初動対応の例は以下の通りです。(初動対応には、緊急事態の種類ごとに違いがあります。)
・安全確保と二次災害の防止
まずは人命最優先で、現場にいる従業員の判断で、顧客や従業員の安全を第一に被害を拡大させないよう措置を行います。経営者や部門長が現場に居合わせた場合は、従業員に指示を出します
・システムやデータの保護
システム(ストレージ、サーバー、ネットワーク機器、PC、ソフトウェア)や通信機器(電話、FAX、インターネット等))の損傷状況を調べ、使えるかどうかを確認します。移動できるものは浸水被害のない上階に移動。システムに格納されているデータを確認し、破損していたら復旧の準備をします。
・重要書類の保護
重要書類を、施設内の安全な場所に移動します。重要書類が損傷した場合は、あらかじめ別の場所に保管していた書類のコピーで対応します。
・企業施設の保全
被害状況を確認したら、浸水を最小限に防ぐための土嚢や止水版などを設置します。移動できる在庫や機材は上の階に移動します。
・被災状況の確認
中核事業の継続・復旧を検討し、施設内外の被害状況を確認します。BCP発動以降の指示拠点となる災害対策本部の確保が必要です。
・周辺地域の状況把握
ラジオ、インターネット、テレビなどを活用し、交通機関の混乱状況や、ライフラインの停止状況を調べます。災害全体の概要を知ることも重要です。
4-2. BCP発動
初動対応のあとはBCPを発動し、事業継続に向けた活動を開始します。
・BCPの発動を判断する
被災状況をふまえ、BCPを発動するかどうかをリーダーが決定します。BCP発動の基準は発災後約4時間~6時間以内が目安と言われています。必要なのは、中核事業の被災度を推定すること。収集した情報や周辺の災害状況などから総合的に判断することが求められます。
・BCPの実施体制を確立
なるべく速やかに、顧客等へ被災状況を連絡するとともに、BCPの実施体制を確立します。
・BCPに基づいた活動
BCPに基づいて、顧客や協力会社向け対策、従業員・事業資源対策、財務対策を併行して進めます。また、緊急事態の進展や収束にあわせて、応急対策、復旧対策、復興対策を進めます。
★最後に補足です。
遠隔地へのバックアップを実現するバックアップソフトの一例として、Arcserve が提供するバックアップソフトを利用したレプリケーションとクラウドバックアップをご紹介させてください。
レプリケーション
レプリケーション機能を使うと以下のようなことができます。
・更新データをリアルタイムに複製し、障害直前のデータで運用再開
遠隔拠点のサーバへあらかじめデータを複製しておくと、本社が浸水してサーバが故障してしまった場合でも、複製サーバで業務を早期に再開できます。
・本番サーバ障害時に切り替え運用ですぐに業務を継続
自動サーバ切り替えで、ごく短い時間で業務をそのまま継続することが可能です。
レプリケーション機能を提供する「Arcserve Replication and High Availability」製品はこちらをご参照ください。
クラウドへのバックアップ
災害対策サービスとしてクラウドへのバックアップを利用すると、オンプレミス環境が被災した場合に
・遠隔地のクラウドにあるバックアップから復旧できます。
・クラウド上でシステムを継続利用できます。
オンプレミスのバックアップソフトウェアArcserve UDPとクラウドを組み合わせて利用する、ハイブリッド型の統合災害対策サービス「Arcserve UDP Cloud Hybrid」に関する詳細はこちらをご参照ください。
Arcserve Japanの強み
これらの製品やサービスの導入前の検討~導入後まで、万全のサポート体制でお客様を支援するので、いざという時に安心です。
・購入前のお問い合わせに「Arcserveジャパンダイレクト」(フリーダイヤル)で対応
・導入後は、経験豊富な日本人スタッフによるテクニカル サポートを提供
・日本語での情報が充実したArcserve ポータルサイトを利用可能
<参考記事>
他人事でない?!災害大国日本で重要な遠隔地バックアップとは?メリット・費用まとめ
まとめ
水害から企業を守るために、すぐできることは以下の5つです。
- まず地域の水害危険度を知る
- 水害を想定したBCP方針を策定する
- 施設を浸水から守る
- 停電に備える
- 重要なデータ、コンピュータシステムを守る
そして万が一、水害が発生してしまったら、慌てずに
「初動対応」「BCP発動~事業継続に向けた活動」を行うこと。
いざ自災害が発生すると思うように事は運びません。しかし、準備をしておけば、被害を最小限にとどめることができます。企業を水害から守り、早期に業務を再開させるために、今から行動を開始しましょう。この記事が企業の水害対策の参考になれば幸いです
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