これまでは紙で郵送して紙のまま保管するのが当たり前とされていた請求書ですが、テレワークの浸透によって、昨今では電子化された請求書を活用する企業が増えています。
業務の効率化やコスト削減を実現する方法として注目されていますが、紙の請求書もまだまだ多く存在する中、いまなぜ請求書の電子化が必要なのでしょうか?
その大きな理由は、昨今普及が進んでいるテレワークへの対応と、電子帳簿保存法やインボイス制度への対応が必要となってきているからです。
では私たちはどのように請求書の電子化を進めていったらいいのでしょうか?
この記事では、請求書の電子化を検討している企業の経理の担当者向けに、いま請求書の電子化が必要な理由、請求書電子化のメリットやデメリット、具体的な電子化の進め方などをご紹介します。経理部門だけでなく、取引先との間で請求書の発行や受領にかかわるマーケティング部門や営業部門などのみなさんも、知っておいたほうがよりスムーズに進められるはずです。
この記事を通して、いちばん身近な電子取引である請求書の電子化についてご理解いただけたら嬉しいです。
目次
1.いま請求書の電子化が必要な理由
さまざまな理由から、まさにいまは請求書の電子化を進めるべきタイミングだと言えます。
その理由は、主に3つあります。
1-1. テレワークが普及してきたから
この2~3年は、コロナ禍の影響もあり、多くの企業がテレワークを導入、または導入を検討したのではないでしょうか?これまでは、「ハンコ出社」という言葉が示す通り、請求書や社内文書、契約書等への承認ワークのために出社しなくてはならない方も少なくなかったのが事実ですが、テレワークの普及に伴い、一部の企業では、この機会に紙の請求書をやめて電子化し、郵送ではなくメールで送付する、クラウドで共有するなど、新しい業務フローを作り上げていきました。
今後、テレワークが企業の業務形態の選択肢として定着してくると、請求書の電子化を導入する企業もさらに増えてくるでしょう。
★テレワークへの取り組み例~最近のニュースより
2022年6月、NTTグループでは、新たに日本全国どこからでもリモートワークにより働くことを可能とする制度(リモートスタンダード)を導入することを発表し、2022年7月1日より実施しています。テレワークを活用することで、転勤や単身赴任をなくし、優秀な人材の確保につなげるのが狙いとのこと。日本を代表する大手通信企業がグループ全体でリモートワークを推進することで、国内の他の企業への影響も大きいでしょう。
1-2. 電子帳簿保存法への対応が必要だから
電子帳簿保存法とは、国税関係(法人税法や所得税法)の帳簿や書類を電磁的記録(電子データ)で保存することを認める法律です。2022年1月に改正され、電子取引における電子データ保存が義務化されました。
電子帳簿保存法これまで「ペーパーレス化に取り組みたい事業者のみが検討するための法律」という位置づけでしたが、これからはすべての事業者に関係してくるのです。
電子データ保存の義務化は2024年1月からスタートするので、それまでは猶予期間が設けられているわけですが、直前に慌てないためにも、いまから準備をはじめると安心です。
★電子帳簿保存法について詳しく書かれた記事がありますので、ご参照ください。
電子帳簿保存法とは?2024年の義務化対応で困らない為の納税者向け早わかりガイド
1-3. インボイス制度への対応が必要だから
インボイス制度開始までには請求書を電子化しておくことをお勧めします。
インボイス制度(正式名称は「適格請求書等保存方式」)とは、一定の要件を満たした請求書や納品書を交付・保存する制度のことで、2023年10月1日からスタートします。
現在は、8%と10%の2種類の税率が混在しているため、請求書に消費税を明記する項目がないと、一目で内訳を把握できません。インボイス制度はこうした取引にかかる消費税額を正確に把握するための制度であり、税率や消費税額などの記載が義務付けられた適格請求書を使用するため、どの商品にどの税率がかかっているかが明確になります。
税率や消費税額など、これまで以上に取引の内訳を詳細に記載しなければならないため、適格請求書の作成や承認、処理においては経理部の負担が大きくなることが予想されます。人的ミスや業務効率低下などを避けるには、紙の請求書では限界があります。これが、インボイス制度開始までに請求書を電子化しておくことが望ましいと言える理由です。
★インボイス制度には事前申請が必要です。課税事業者は税務署から承認・発行された「適格請求書発行事業者の登録番号」を取得し、これを請求書に表記しなくてはなりません。2023年10月1日から登録されるには、2023年3月31日までの申請が必要です。申請から取得まで少し時間がかかるかもしれないので、いまから対応を進めておくのがよいでしょう。
適格請求書(インボイス)とは:
売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるものです。具体的には、現行の「区分記載請求書」に「登録番号」、「適用税率」及び「消費税額等」の記載が追加された書類やデータをいいます。
インボイス制度とは:
<売手側>売手である登録事業者は、買手である取引相手(課税事業者)から求められたときは、インボイスを交付しなければなりません(また、交付したインボイスの写しを保存しておく必要があります)。
<買手側>買手は仕入税額控除の適用を受けるために、原則として、取引相手(売手)である登録事業者から交付を受けたインボイス(※)の保存等が必要となります。
(※)買手は、自らが作成した仕入明細書等のうち、一定の事項(インボイスに記載が必要な事項)が記載され取引相手の確認を受けたものを保存することで、仕入税額控除の適用を受けることもできます。
インボイス制度の概要(国税庁のサイトより抜粋)
2.請求書電子化のメリットとデメリット
次に、請求書の電子化のメリットとデメリットをご説明します。
請求書の電子化には、業務の効率化やコスト削減など大きなメリットがあると同時にデメリットもあることを理解しておきましょう。
2-1.請求書の電子化によるメリット
請求書を電子化すると、以下のようなメリットが得られます。
① 請求書の作成から受領までの時間を短縮できる
いちばん大きいメリットは時間短縮です。請求書を電子的に発行すると、メールやクラウドストレージなどですぐに取引先と共有できます。専用の請求書発行システムなどを利用すると、さらに簡単かつスピーディに発行できるでしょう。
紙の請求書の場合は印刷して一部を社内でファイリング、一部を封入、投函、受領、開封、目視、ファイリングという流れになり、最短でも2日以上はかかります。電子化するだけで、これがその日のうちに、しかも短時間のうちに行われ、請求書にかかわる処理時間を大きく短縮できます。
② コスト削減ができる
請求書の電子化により、ペーパーレス化が促進され、コスト削減ができます。
従来の請求書発行業務では、Excelなどで作成した請求書を紙に印刷し、捺印して取引先に郵送する必要があります。保存用に紙でファイリングも必要です。電子化により、紙代やインク代、設備代、郵送代などが不要になり、コスト削減につながります。
郵送費だけでも、1点あたり84円、毎月100社に送ったとして年間で10万800円かかります。作業をするスタッフの人件費も忘れてはなりません。取引先数が多ければ多いほど、コスト削減のメリットも大きくなります。
③ 出社しなくても業務が進められる
請求書の電子化は、在宅勤務などのテレワークへの対応を容易にします。
請求書関連の業務が紙で行われていると、請求書の印刷や捺印のために出社しなければならず、テレワーク導入の妨げとなってしまいます。請求書の電子化により、出社することなく請求書の発行や溶融が可能になり、テレワーク中でも業務の停滞を防ぐことができます。
2-2. 請求書電子化のデメリット
請求書を電子化する際には、以下のようなデメリットが想定されます。
① 紙の請求書と電子請求書の混在による管理が煩雑
自社で請求書の電子化を進めても、取引先が紙の請求書しか受け付けていない場合もあります。
電子化に対応していない企業が取引相手の場合、紙の請求書と電子請求書が混在してしまい、結果的に請求書の管理が煩雑になりかねません。
煩雑さを受け入れて紙と電子の両方を管理するか、もしくは電子請求書の必要性やメリットを理解してもらい、できるだけ早く電子化してもらうか、の2択ですが、過渡期である現状では、紙の請求書と電子請求書が混在している企業のほうが多く、当面、管理の煩雑さは避けては通れないでしょう。
② システムを利用する場合には導入・運用コストが発生する
請求書を電子化するために、請求書発行システムやクラウドストレージを利用する場合には、システムの導入コストや月々の利用コストがかります。
ただし、請求書の電子化によって、請求書発行業務が軽減できることから、削減できる人件費を踏まえると、トータルではコスト削減につながる可能性があります。
3.請求書の電子化を進めるための3つのステップ
ここまでは、請求書の電子化が必要な理由と、そのメリットとデメリットについてご紹介してきました。
では、電子化を進めるために私たちは何をすればいいいいでしょう。
この章ではその具体的な3ステップを簡潔にご紹介します。
3-1. 現状を確認する
まず自分たちの会社の請求書がどのような状況かを把握しておく必要があります。
電子化を効率よく進めるために、社内の関連部署や取引先に対して、現在の方法から電子化への移行についてきちんと説明しなくてはならないため、このステップが必要です。
把握しておくべき点は、たとえば
・紙で発行されているかデータで発行されているか
・利用しているシステムは何か
・請求書に関連する部門はどこか
・取引している相手は何社か
・請求書のデータ形式は何か
などです。
3-2. 社内でルールを整える
現状を確認したら、次のステップでは、全社が電子請求書に対応できるよう、ルールやフローを整えましょう。
自分たちが作成した請求書を「どのように電子化するか」、「どこに保管するか」、「請求書発行のためのフローはどうすべきか」などを明確にすることで、現場が混乱しないようにし、効率よく電子化が進められるからです。
具体的には
・作成や保管の手順などをルール化する
・請求書の依頼・承認・発行の社内フローの適性化を図る
といった作業が必要になります。
3-3. 電子化の方法を決める
電子請求書の作成方法は、大きく分けて次の2種類です。自社に合った方法を選択しましょう。
① Excelなどのスプレッドシートで作成
② 請求書作成システムを利用して作成
① Excelなどのスプレッドシートで作成
特に新しいものを準備する必要はありません。これまでと同様、Excelなどで請求書を作成し、改ざんされないようPDFに変換し、取引先に送付します。送付方法は、現状ですとメール添付のケースが多いようですが、クラウドストレージで共有する方法もあります。取引先との共有方法もあらかじめ決めておきましょう。
② 請求書作成システムを利用して作成
すでに請求書作成システムを導入済みであれば、そのテンプレートに沿って必要な情報を入力するだけで作成できます。取引先を選択し、メール送付か郵送か、などの共有方法を選択するだけでPDFダウンロードや印刷までできるシステムもあります。クラウド型の請求書発行システムであればテレワークでも利用できますね。
これからシステム導入を検討する場合は、電子帳簿保存法にも対応した(または対応予定の)システムを選択することをお勧めします。また、会計システムなど、社内の他のシステムと連携しやすいシステムを選択するとさらに効率がアップするでしょう。
4.請求書の電子化を進める上で注意すべきセキュリティリスク
電子化された請求書の取り扱いでもっとも注意すべき点は、以下のようなセキュリティリスクです。
電子データを扱う以上、セキュリティリスクが発生する可能性はゼロではありません。セキュリティ対策を万全にし、様々なリスクを解消する必要があります。
他の文書と同様に①メールに添付して送る場合と、②クラウドサービスを利用する場合のそれぞれで、注意すべき点をご紹介します。
① メールに添付して送信する場合:
自社でExcelなどを使って請求書を作成し、メール添付で取引先に送る場合は、以下のことに注意しましょう。
□PDF化する:Excelなどで作成した請求書のデータは、簡単に改変できずレイアウトが崩れないPDFファイルにしたものを送りましょう。
□送り先の間違い:当たり前のことですが、誤送信には十分に気をつけましょう。
□ウィルス感染:悪意あるウィルスなどに感染していないか注意しましょう。
□受取先のメール見落とし: 送り先に請求書の取り扱いについて確認をし、請求書をメールで送ることについて了承を得ておく必要があります。事前に取り決めた件名で送ることで見落としをなくしましょう。
②クラウドサービスを利用する場合:
クラウドストレージや請求書作成システムなどのクラウドサービスを利用する場合、事業者が情報セキュリティ対策を適切に行っているかどうかを確認した上で選定する必要があります。
選定の基準は以下をご参照ください。
「クラウドサービスを利用する際の情報セキュリティ対策」(総務省サイトより抜粋)
★データのバックアップはクラウド事業者まかせにしない
クラウドストレージやクラウド型請求書システムなどクラウドサービスを活用する場合、サービス事業者のサーバーは比較的セキュリティ強度が高いものの、不正アクセスによってデータが盗まれるリスクもゼロではありません。また、データセンターの被災やサーバー障害などによるデータ消失の可能性もあります。このため、クラウドサービス事業者によるデータバックアップだけに頼らず、社内システム同様、データのバックアップを万全にしておく必要があります。
これからクラウド型請求書発行システムを導入する場合は、電子帳簿保存法とインボイス制度に対応し、セキュリティレベルの高いものを選択するとよいでしょう。
以下に一例をご紹介します。(コンテンツは公式サイトからの抜粋です)
★BtoBプラットフォーム 請求書(株式会社インフォマート)
企業間の請求書発行業務に特化した請求書発行システム
・電子帳簿保存法・インボイス制度に対応
・万全のセキュリティ対策:常に高レベルのセキュリティを確保できる体制を構築し、24時間365日の監視を実施
★楽楽明細(株式会社ラクス)
請求書、納品書、支払明細などの帳票をWEB上で発行するクラウド型のシステム
・電子帳簿保存法・インボイス制度に対応
・安心のセキュリティ体制:サーバーは抜群の防災性能を誇る国内屈指のデータセンターに設置され、暗号化通信などセキュリティ機能も充実。
★このほかにも様々なクラウド型請求書発行システムがあります。自社に適したシステムを選ぶには、こんなサイトも参照してみてはいかがでしょうか。
【2022年版】クラウド請求書発行システム23選徹底比較!選び方も紹介
5.電子化された請求書データのバックアップ方法
請求書をはじめ、会計にかかわるデータは非常に重要なデータと言えます。データ消失によって業務を停止させないためにも、社会全体や取引先からの信用を失わないためにも、必ずバックアップを取りましょう。
この章では電子化された請求書データのバックアップ方法についてご紹介します。
★お勧めのバックアップ方法:
専用ソフトでバックアップし、二次バックアップ先として遠隔地やクラウドなどに保存することをお勧めします。
特にお勧めしたいのは、Arcserveが提供するシステムをまるごとバックアップできるソフトウェアの「Arcserve UDP」と、同じくArcserveが運営するクラウドサービス「Arcserve UDP Cloud Hybrid」の組み合わせです。
「Arcserve UDP Cloud Hybrid」 は、Arcserve UDP / Arcserve UDP Appliance のバックアップデータの複製先として利用でき、拠点が1つしかない企業でも、簡単な操作で安全にデータの複製が行えます。また、災害やランサムウェアなどの被害にあった場合でも、遠隔地のクラウドにあるバックアップから復旧することができるからです。
まとめ
請求書の電子化を急いだほうがいい理由として、
・テレワークの普及
・電子帳簿保存法への対応
・インボイス制度への対応
などがあげられます。
また、時間の短縮やコスト削減、効率の向上など、メリットが大きいのが請求書の電子化です。取引先での請求書電子化が加速するなか、紙の請求書しか扱えない会社は、今後、電子商取引の潮流に取り残されてしまうかもしれません。
一方、顧客との取引情報を扱う請求書は取り扱いに注意が必要で、電子化を推進するにはセキュリティリスクへの対策が必須となります。クラウドストレージやクラウド型請求書発行システムを利用する場合は、セキュリティレベルの高いサービスを選択する必要があるでしょう。また、電子帳簿法やインボイス制度にも対応したシステムを選ぶと現場担当者の負担も軽くなるはずです。
そして、電子化された請求書データはほかのデータと同様にバックアップを取り、万が一の場合でも事業が継続できるようにしておくのがベストです。
まさにいま、請求書の電子化をお考えのみなさんにとって、この記事が参考になればうれしいです。
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